ある日突然、「来月から社内報の担当をお願いしたい」と言われたら、あなたはどう感じるでしょうか。 文章は得意ではない。何を書けばいいのか分からない。そもそも、業務時間を割いてまで作るこのメディアを、本当に誰かが読んでくれるのだろうか。
不安を抱えながら、まずはブラウザの検索窓に「社内報とは」と打ち込むところから、新しい役割が始まる担当者は少なくありません。実は、私自身もかつては全く同じ道を辿った「迷える担当者」の一人でした。当時の私に与えられた引き継ぎ期間は、わずか1カ月。右も左も分からないまま、迫りくる締め切りに追われ、深夜まで取材記事の文章と格闘する日々を送っていました。とにかく「形にすること」で精いっぱい。上司からのアドバイスには、まだ何も分からないからこそ「はい」と頷いて受け入れるしかありませんでした。先輩や上司の言う通りに作れば間違いない、そう自分に言い聞かせていたのです。
しかし、そんな私の姿を見ていたある役員が、ふとこう声をかけてくれました。 「もっと自分の意見を言わないと。君がただ頷いているだけじゃ、上司だって面白くないだろう。君がどうしたいのか、言っていいんだよ」その言葉にハッとしました。それからの私は、上司と「どうすればもっと良くなるか」「会社をどう変えたいか」という想いをぶつけ合い、共に考えるパートナーへと変わっていきました。
この記事では、そんな私の実体験を交えながら、社内報とは何かという基本から、組織を動かすための設計図、そして読まれるためのコンテンツ設計まで、4,000文字を超えるボリュームで徹底的に解説します。
社内報とは
社内報とは、企業におけるインナーコミュニケーション(社内広報)の重要な手段の一つです。社員やその家族、役員、時には投資家といった特定のステークホルダーに向けて、企業の理念や情報を届けるメディアを指します。
かつては「紙の冊子」が主流でしたが、現代ではその形式は驚くほど多様化しています。
社内報の種類
・紙の冊子型: じっくり読ませる特集や、家族への共有に適している。
・Web社内報: 速報性に優れ、動画やリンクを活用できる。
・アプリ型社内報: スマートフォンからいつでも閲覧でき、プッシュ通知で情報を届けられる。
・動画配信: 経営陣の熱量や現場の臨場感をダイレクトに伝える。
・音声配信(社内ラジオ): 「ながら聞き」が可能で、忙しい社員の隙間時間を活用できる。
・まとめ:社内報とは、組織の未来を創る仕事
しかし、ここで忘れてはならないのが、社内報の本質は単なる「社内ニュース」を流すことではないという点です。 社内報とは、組織内の情報を循環させる「ハブ」であり、企業文化を形成するための「装置」です。血液が全身を巡ることで体の健康が保たれるように、社内報は組織の中に「情報」と「感情」を巡らせ、組織を活性化させる役割を担っているのです。
社内報の目的とは? 迷走した時に立ち返る「5つの柱」
私が担当になりたての頃、一番苦しかったのは「何のためにこれをやっているのだろう」という目的が曖昧になり、迷走してしまった時でした。 ある日、心血を注いで作った社内報が、オフィスのゴミ箱に捨てられているのを目撃しました。その光景を見た時のショックは、今でも忘れられません。「時間をかけて作っても、結局はゴミになるだけなのか」と。
しかし、その絶望が転機となりました。「どうすれば読まれるのか?」を真剣に考えるうちに、社内報には揺るぎない「目的」が必要だと気づいたのです。一般的に、社内報の目的は以下の5つの柱に集約されます。
情報共有の最適化
拠点や部署が分かれている企業では、情報の偏りや「あそこの部署が何をしているか分からない」という壁が生まれがちです。社内報は全社員に公平に、かつ正確に情報を届ける役割を果たします。
経営理念・ビジョンの浸透
企業の理念は、壁に掲示してあるだけでは浸透しません。なぜその理念が生まれたのか、その背景にある経営陣の想いやストーリーを繰り返し伝えることで、社員の記憶と感情に定着していきます。
モチベーションの向上
活躍する社員のインタビューや、自社サービスが顧客にどう喜ばれているかという「お客様の声」を共有することで、自分の仕事の意義を再確認する機会を創出します。
仲間意識・帰属意識の醸成
普段接点のない他部署の社員の、業務外での意外な一面や価値観を知ることは、心理的な距離を縮めます。これは、Googleが提唱した「心理的安全性(誰もが安心して発言・行動できる状態)」を高めることにも直結します。
従業員教育
ロールモデルとなる先輩の紹介や、業務に役立つナレッジ共有を通じて、社員に学習機会を提供します。
企画に迷った時、私は自分に問いかけるようにしています。「この号を読んだ後、社員にどうなってほしいのか?」。 納得してほしいのか、誇りを感じてほしいのか。それとも、ただクスッと笑ってリフレッシュしてほしいのか。感情レベルでゴールを定義することが、設計の第一歩となります。
社内報を通して生まれる「価値の好循環」
社内報は、直接的にお金を生む業務ではありません。そのため、「コストばかりかかって意味があるのか」と心無い言葉をかけられることもあるかもしれません。しかし、私は断言できます。社内報は、企業にとって非常に高い投資対効果(ROI)を生む「仕組み」です。
社内報を通じて社員のモチベーションが上がれば、その社員の中に「この会社で頑張りたい」という帰属意識が芽生えます。すると、従業員エンゲージメントが向上し、結果として一人ひとりがより主体的に会社に貢献するようになります。
このように、情報を流すことによって「良い仕組み」と「好循環サイクル」を作り出せるのが社内報の凄さなのです。
社内報の種類と媒体選び:読者の時間をどう「設計」するか
「ゴミ箱に捨てられた」という私の苦い経験から学んだのは、読者には「読みたい人」「読みたいけど時間がない人」「そもそも興味がない人」など、千差万別な事情があるということでした。特に私が意識したのは、「読みたいけど時間がない人」にどうやって時間を割いてもらうかという視点です。
紙の社内報
- メリット: じっくりと読み込むことで深い理解を促します。また、社員の自宅に郵送することで、家族に会社の様子を伝え、応援してもらう「家族向け社内報」としても機能します。
- デメリット: 印刷・発送のコストがかかり、一度発行すると修正が効かない点です。
Web社内報(およびアプリ)
- メリット: 速報性が高く、今日起きた出来事をその日のうちに配信できます。また、「いいね」やコメント機能で双方向のコミュニケーションが可能です。
- デメリット: 流し読みされやすく、長文の特集記事などは最後まで読まれにくい傾向があります。
最近では、速報はWebで流し、深いストーリーは紙の冊子で届けるという「ハイブリッド型」を採用する企業も増えています。媒体選びは「何が便利か」ではなく、「誰に、どんな状態で届いてほしいか」という読者視点から逆算して決めるべきです。
コンテンツ設計:担当者の「腕の見せ所」は切り口にある
社内報には、いくつかの定番コンテンツがあります。しかし、それらをそのまま掲載するだけでは「また同じ内容か」と飽きられてしまいます。
- トップメッセージ
社長の経営方針だけでなく、あえて「素の姿」や「失敗談」を取材することで親近感を生みます。 - 社員紹介・インタビュー
活躍している人だけでなく、サポート部門や新入社員など、多様な層にスポットを当てることが大切です。 - ハード・ソフトの紹介
新しいオフィス設備(ハード)や、福利厚生などの社内制度(ソフト)を、実際に活用している人の声と共に紹介します。
ここで重要になるのが「切り口(アングル)」です。 例えば「新製品の開発ストーリー」という一つの情報でも、技術職向けには「こだわったスペック」というマニアックな切り口で、営業職向けには「お客様にどう説明すれば喜ばれるか」という活用事例の切り口で、というようにターゲットに合わせて再編集することで、反応は劇的に変わります。
「この記事で一番喜んでくれるのは誰だろう?」と想像し、特定の部署やターゲットを明確にしていくと、徐々に「読んでほしい人」に刺さる記事が書けるようになります。私は役員の方々と話す中で、「現場は今、こういう情報に飢えている」「こういう切り口なら響くはずだ」という感覚を養っていきました。
最近注目の「社内ラジオ」という新しい選択肢
「読みたいけど時間がない」という課題に対する究極の解決策として、今注目されているのが「社内ラジオ」です。
音声メディアの最大の利点は、PC作業中や移動中などの「ながら聞き」ができる点にあります。テキストでは読み飛ばされてしまうような長いメッセージも、音声ならラジオ番組を聴くような感覚で最後まで受け取ってもらえる可能性が高まります。
さらに、音声は「熱量」や「人柄」が伝わりやすいという特徴があります。経営陣が自分の言葉で、時には笑いを交えながら語る声は、テキストの数倍の説得力を持って社員の心に届きます。ラジオをきっかけに同僚との会話が生まれるなど、コミュニケーションの促進に大きな効果を発揮しています。
まとめ:社内報とは、組織の未来を創る仕事
「私がこんなことを発信していいのかな」と悩むこともあるかもしれません。しかし、広報・社内報担当という仕事は、普段は話せないような経営層や他部署のエースたちの話を直接聞くことができ、会社をあらゆる角度から見渡せる、本当に面白い仕事です。
完璧な文章を書くことよりも大切なのは、「この情報を流すことで、組織に良い変化を起こそう」という意志を持つことです。
あの日、ゴミ箱に捨てられた一冊の冊子を拾い上げた時の悲しさを糧に、私は「社内報は単なる作業ではなく、戦略である」と確信しました。社内報は、組織を動かし、社員を幸せにし、会社の未来を創る設計図そのものなのです。
あなたが今、不安や迷いの中にいたとしても大丈夫です。少しずつ、あなたの「声」を記事に乗せていってください。あなたの作る社内報が、組織の好循環を生み出すきっかけになることを心から願っています。
エム・ピーアールの社内広報支援
エム・ピーアールは、14年のインハウス広報経験をもとに、中小企業の社内広報設計を支援しています。
「なんとなく続けている社内報」を、「組織を動かす戦略メディア」へ。 社内報で悩んでいる広報担当者の皆さま、まずはご相談ください。言葉の設計から、伴走いたします。
社内報の担当だったからこそ、わかる悩みがあります。
社内報担当だったからこそ、ひとりで悩む気持ちがわかります。
ネタ不足、原稿回収、読まれない不安…。
まずは今の状況をお聞かせください。

